2012年5月1日火曜日

五十肩、肩こり外来 -東京女子医科大学東医療センター整形外科-


東京女子医科大学東医療センター整形外科
准教授 神戸克明: 毎週水曜日、金曜日午後要予約
TEL: 03-3810-1111

はじめに

中高年の肩が痛くて悩んでいる人は最近増加しており、まさに現代病とも言われております。一般的に「たかが五十肩なんか」と軽く見られる傾向があって、実はその中に重症化しやすいタイプを含んでいることがあり注意が必要です。接骨院や針灸などにさんざん通ったあげく、なかなか治らなくて困っている人。リハビリをもう半年以上やっても一向によくならない人。そのような方に当センターでは五十肩、肩こり外来を設置し、肩関節鏡視下手術により2~3泊入院で、しかも小さな創で治療する方法をこれまでに300人以上行なって参りました。患者さんからはとても満足の高い評価を受けております。全国から五十肩で悩んでおられる方が来られ、精密検査をして以下のように治療を行なっております。

五十肩と肩こり

まず五十肩と肩こりは基本的には別な疾患として考えたほうがよいです。五十肩は肩が痛いだけでなく腕の動きの悪いこと、肩こりは首の周囲の痛みで頭も重く感じ、主に頚椎の神経由来のものが多いです。ですから、五十肩は肩関節の疾患、肩こりは首の疾患(首の神経や姿勢異常など)が主です。さらに、高血圧、糖尿病、眼症状にも合併することもあります。ところが、五十肩がよくなると肩こりもよくなる人がいて、ともにオーバーラップすることも考えられます。最近では五十肩になって、痛くて血圧が高くなり肩こりが起こるケースが増えています。

具体的な症状

夜や朝方に肩が痛くて目が覚める。痛い方の肩を下にして眠れない。腕を横に伸ばすとピキッと激痛が走る。いいほうの腕と比べると痛いほうは腕が後ろに回せない。肩だけでなく二の腕や肘あたりまで痛い。手のむくみや握りがつらい。肩が常に重だるく、首のほうまで重い感じがある。


うつ病の悲しみ

肩の痛い中高年の男性の約3割は糖尿病

五十肩は男性も女性も共に起こる病気ですが、その原因が違う場合が多いです。女性の場合、特発性といって50歳ぐらいに誘引なく朝おきたら痛いとかゴルフをやったあと痛くなったとか原因がわからないことが主です。しかしおそらく糖代謝異常や糖尿病の家族歴が関連していると思われます。時に両肩が痛くなることもあります。一方、男性は合併症として糖尿病がある人が当センターの調べで約3割いることが判りました(1)。ですから肩の痛い中高年の場合必ず血液検査をして血糖値やヘモグロビンA1cという糖尿病の検査をします。そのほかに五十肩の原因として、肩の脱臼や骨折後数年たったものや、肝臓病、心臓病、乳癌の手術後などがあります。

五十肩の病態

五十肩は肩が痛いだけでなく肩の動きが制限される病気です。肩が痛いけれども腕の動きは問題ないものを肩関節周囲炎といい、腕が肩の高さまで上げられないものを拘縮肩といって五十肩を放置するとこの重症化した拘縮肩になります。 これは全身麻酔をして完全に痛みをとってあげて肩を動かしても中で制限されて肩を動かすことはできません。すなわち、すでに痛くて肩を動かせないのではなくて、肩の中がくっついて構造的に動かせなくなっているのです。このように五十肩が発展して拘縮肩になってしまいますと、なかなかリハビリや針治療では治らず手術が必要になる場合があります。それではなぜ五十肩は起こるのでしょうか?そのメカニズムについて説明します。
肩の中には腱板という腕を挙げる大事な腱が上腕骨にくっついています。その腱板が骨に付着している数mmのところはとても血行が悪い場所で、肩の肩甲骨の突起(肩峰)でこすれやすく傷が治りにくい場所となっています。五十歳ぐらいになると肩だけでなく膝なども関節の滑りが悪くなり、俗に言う油がきれた状態になっています。

それですのでヒアルロン酸製剤の注射を肩にうちますと効果があるのです。ステロイドの注射も炎症を抑えてよく効きますが、何度も行なうと特に糖尿病の人は肩の骨が溶けて壊れてしまうことがあり注意が必要です。


耳と痛み以下の耳の後ろの圧力、

また糖代謝異常や糖尿病があると腱板のキズが治りにくくなり、中には腱板不全断裂となる場合もあります。こうした慢性的な炎症が肩の関節内に広がり、特に二の腕の付け根(上腕二頭筋長頭腱)が腱板周囲と炎症と癒着が起こり腕を外に動かしたり、後ろにやったりすることが困難になります(図1)。

リハビリを行なって肩甲骨の周囲の動きがよくなると肩の動きは一見代償されますが肩甲骨を押さえるとやはり腕の動きが悪いひとが多いです。これが一般的に五十肩は自然に治るといわれる所以ですが、痛みはよくなっても腕の動きが悪いのは残ってしまいます。当センターではリハビリの補助手段として肩関節鏡視下手術を行なって参りました。腱板のキズで癒着してしまった上腕二頭筋長頭腱周囲の動きを内視鏡手術で剥がしてあげて翌日からリハビリを開始し早期社会復帰を目指します(図2)(2)。

肩関節、肩こり外来の診療手順

肩の筋肉が弱くなっていないか、肩甲骨の動きが正常かどうかを判断し、肩全体の動きをチェックします。肩甲骨の動きは一度よくなっても再び悪くなることがあります。次に痛い場所(圧痛)がどこかも確かめます。五十肩の場合は肩の前にある骨の突起(烏口突起)付近を押すと痛いことが多いです。 これはその近くに炎症や癒着の原因(烏口上腕靭帯の肥厚)があることが考えられます。そしてレントゲン検査や場合によりMRI検査やエコー検査を行います。診察だけでも十分肩の痛みの原因がどこにあるかは推察できます。ヒアルロン酸の注射やリハビリテーション治療も効果がなければ、肩関節鏡視下手術により治療を行います(3)。
これは全身麻酔ですが1cm程の傷を4ヶ所程で行い、入院も約3日程で行なっております。
治りにくい五十肩の場合は手術後、次の日から肩を動かしてリハビリテーションを行い1ヶ月ほどで、挙がらなかった腕が挙がる様になります(図3)。
これは肩の中に赤く充血している炎症があり、ちからこぶを出す筋肉(上腕二頭筋)の腱が癒着して動きにくくなっているので、それを手術により十分剥がすことで治療効果を引き出します(図2)。


減量薬局

これにより肩の痛みや夜間痛、手のむくみも改善してきます。これをわずか4mmの内視鏡を使って治します。
また肩の中に腱板といった大事な腱があるので、これに傷がついたりしていると五十肩の夜間痛が治りにくい方がいます。これも同時に関節鏡で縫合します(図4)。

五十肩の体操

最近では新聞、テレビなどで五十肩の最新治療として内視鏡手術が話題になっており、十分なリハビリにて治らない肩の痛い方で腕が上がらない場合には適応があります(5)。
しかし、五十肩の予防法として五十肩体操というものがあります。
まず、1. 痛い腕を垂らして腰をかがめて地面に接するように全身の力を抜いて腕を振り子のように揺り動かす、いわゆる「おじぎ体操」があります(肩甲骨周囲筋のリラクゼーション)。
2. 仰向けに寝て痛い腕を片方の手で支えながらゆっくり頭の上に上げていく体操(挙上運動)、
3. 肘を体につけて手のひらを上に向けて「どうぞ」とするように外に回す体操(外旋運動)。
これらの体操も最近テレビでご紹介しております(5)。
特に大事なのはこの外旋運動が治らないと夜の肩の痛みはとれないことです。

スポーツ外傷による肩痛

野球、バレーボール、水泳、重量挙げなどで肩が痛くなってスポーツができない方は悪化しないうちに早めに診察を受けてください。特に中学、高校野球で肩肘痛があるのに無理に練習を続けて試合に出場したりして無理をしている選手は一度メディカルチェックを受けたほうがいいです。成長期の肩肘痛は大人と違い、骨の成長障害にも関わりますので注意が必要です。腕を上に振り上げたり、重いものを急激に持ち上げたり、鉄棒に長時間ぶら下がったりしますと上腕二頭筋腱付着部の関節唇がはがれることがあり、ひどくなると肩関節鏡視下手術が必要となります。
また、野球のバッターや、転倒して肩にピキッと激痛がはしり肩を横にあげるちからが入りにくい場合は腱板断裂の可能性があります。放っておくと断裂の穴が大きくなってしまい治りにくいので、MRIやエコーで検査をして、肩痛や筋力低下の症状が続いているならば肩関節鏡視下腱板縫合が必要となります(図5、6)(4)。


さらに肩疾患ではとても大事なものに反復性肩関節脱臼があります。例えば20歳代のスノーボードなどで脱臼した場合8割近くが再び脱臼します。これは一度肩が脱臼すると抜けやすくなり、いわゆる脱臼の通り道ができてしまうからです(バンカートリージョンといいます)。

つまり氷の上を靴で歩いているようなもので、ふと気をぬくと転んでしまう、すなわち脱臼してしまうのです。これを放っておくと変形性肩関節症となって骨にとげができたりして腕が上がらなくなったり、肩の重い痛みが長く続いてしまいます。これらも十分MRIなどで検査をして早めに治したほうがいいです(図7)。

肩が痛くて困っているすべてのひとへ

突然肩が痛くなって、あるいはスポーツなどでけがをして肩が痛いなど 多くの肩の患者さんへむけて私からのメッセージです。

  1. まず肩が痛い原因を納得のいくまで説明をうけること
  2. 同じ治療を半年以上おこなって全く効果のない場合は違う選択肢を考えること
  3. 早期診断、早期社会復帰をめざした治療を受けること
  4. 肩にも内視鏡の手術があるので決してあきらめないこと

以上です。最後に我々肩の専門のドクターはまだまだ全国的に少なく、もっともっと肩の病気がよくなるようにこれからも頑張りたいと思います。

是非当センター肩関節外来を一度訪ねてみて下さい。

五十肩、肩こり外来のスタッフ・診察時間

神戸克明(准教授)

[診察時間]
・水曜日PM / 要予約
・金曜日 / 初診枠

※担当医は学会等により変更・休診になる場合がありますので、受診の際は念のためお電話でご確認下さい。



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